【10月1日から企業の義務に】カスハラ・就活セクハラ対策|人事・総務に求められるSNSリスクの早期発見


2026年10月1日、二つのハラスメント対策が義務化

2026年10月1日から、すべての事業主に対し、「カスタマーハラスメント対策」と「求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策」の防止措置が義務付けられます。

これまで企業の自主的な取組に委ねられる部分が大きかった二つの領域について、方針の明確化、相談体制、事実確認、被害者への配慮、再発防止などが法的な義務として求められるようになります。

項目対象となる場面主な担当部門
カスタマーハラスメント対策店舗、窓口、電話、訪問先、取引、SNSなどで顧客等から労働者が受ける言動人事、労務、総務、法務、広報、店舗・事業部門
求職者等へのセクハラ対策採用面接、会社説明会、OB・OG訪問、インターンシップ、教育・看護実習、SNS上の連絡など人事、採用、労務、総務、法務、現場受入部門

厚生労働省の2023年度調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けた経験がある労働者は10.8%でした。また、就職活動中のセクハラ経験は31.9%、インターンシップ中では30.1%とされています。制度対応は、一部の大企業や接客業だけの課題ではありません。

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今回の義務化で重要なのは、社内に相談窓口を置くだけでは足りない点です。被害や告発がSNS上で先に表面化する可能性を前提に、オンライン上の兆候を発見し、社内の確認・保護・判断へつなぐ経路まで設計する必要があります。

カスタマーハラスメント対策の義務化で企業に求められること

■ カスハラに該当する三つの要素

厚生労働省の指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の三つをすべて満たすものとしています。

  1. 顧客等による言動であること
  2. 業務の性質その他の事情に照らし、社会通念上許容される範囲を超えていること
  3. その言動により、労働者の就業環境が害されること

対象となる「顧客等」は、購入者だけではありません。取引先の担当者、施設の利用者とその家族、問い合わせをした人、契約交渉の相手、近隣住民なども含まれます。さらに、電話やSNSなどインターネット上で行われる言動も対象です。

一方で、顧客からの苦情すべてがカスハラになるわけではありません。商品やサービスへの正当な指摘、合理的な改善要求、障害者が合理的配慮を求めることなどを、一律にカスハラとして扱うことはできません。

■ 事業主が必ず講じる措置

  • カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する方針の明確化と周知
  • カスハラの内容と、管理監督者への連絡、複数人対応、警察への通報、本社への共有など対処内容の周知
  • 相談窓口の設置と、相談担当者が適切に対応できる体制の整備
  • 事実関係の迅速かつ正確な確認
  • 被害を受けた労働者への配慮
  • 再発防止措置
  • 特に悪質なカスハラへの対処方針と実行体制の整備
  • 相談者等のプライバシー保護
  • 相談等を理由とする不利益取扱いの禁止と周知
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SNSモニタリングは、カスハラかどうかを自動判定する仕組みではありません。公開投稿を早期に把握し、投稿内容、要求の妥当性、言動の態様、継続性、現場の記録などを照合するための「初動情報」を得る仕組みです。正当な苦情とカスハラを分けるには、必ず人による文脈確認が必要です。

求職者等へのセクハラ対策の義務化で企業に求められること

求職者等へのセクシュアルハラスメントとは、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等の求職活動や実習などが阻害されるものです。

対象は求人への応募者だけではありません。採用に資する活動への参加者、インターンシップ参加者、教育実習生、看護実習生なども含まれます。採用面接、会社説明会、OB・OG訪問、実習に加え、個人LINEやSNS、オンライン面談などを介したやり取りも対象になります。

■ 典型的な行為

  • 恋愛・交際・性的経験などを尋ねる
  • 容姿や身体について性的な発言をする
  • 性的な冗談やからかいを繰り返す
  • 必要なく身体へ触れる
  • 性的な関係を求める、または強要する
  • 求職者を執拗に私的な食事へ誘う
  • 採用上の優位性を示しながら私的な関係を迫る

異性間だけでなく同性間の行為も該当し得ます。また、被害者・行為者の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず対象になります。

■ 採用活動のルール化が義務に

事業主には、禁止方針と厳正対処の周知、求職者が利用できる相談窓口、迅速な事実確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止、プライバシー保護などが求められます。

さらに今回の指針は、求職活動等に関するルールをあらかじめ明確にし、労働者と求職者等の双方へ周知することを求めています。厚生労働省は例として、面談時間、面談場所、実施体制、やり取りに使用するSNSの種類などを挙げています。

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採用担当者だけを研修対象にするのでは不十分です。OB・OG訪問を受ける社員、インターン受入部署、実習指導者、内定者と接点を持つ若手社員まで対象を広げる必要があります。会社が認めていない個人SNSでの連絡や、夜間・個室での面談をどう扱うかも明文化すべきです。

主要メディアで報じられた事例から考える

ここからは、過去に主要メディアや企業自身が公表した事例を基に、ハラスメントとSNSがどのように結び付くのかを整理します。

公表・報道時期事例ネット上で生じたこと
2013年10月「しまむら」店舗で従業員に土下座をさせた事案客が従業員2人の土下座写真をXの前身であるTwitterへ投稿。投稿者への批判や特定が広がり、強要容疑で逮捕されたと報道
2019年NHKの訪問職員を追跡・撮影した事案職員が侮蔑的な暴言を受けながら追跡され、氏名とともに動画が無断公開されたとして、NHKが業務妨害行為に対する提訴を公表
2019年2~3月大林組社員によるOB訪問をめぐる事案OB訪問アプリを介して知り合った女子学生に対する事件が報道され、同社は対応の不十分さを認め、専門部署設置とリクルーター教育を公表
2025年セクハラ被害のSNS告発と企業声明被害者が企業名を示してXへ投稿し、企業は4日後に被害を事実と認める声明を発表。声明の表現が被害者をさらに傷つけた問題も報道

■ 事例①:土下座写真の投稿が「カスハラの可視化」と炎上を同時に起こした

2013年、衣料品チェーン「しまむら」の店舗で、客が従業員2人に土下座をさせ、その写真をTwitterへ投稿した事案が報じられました。投稿には店舗や従業員に関する説明が添えられていましたが、ネット上では従業員側への同情と投稿者への批判が拡大しました。その後、投稿者は強要容疑で逮捕されたと報じられています。

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この事例では、現場での土下座強要と、写真をネット公開する行為が連続しています。現在の指針では、土下座の強要は精神的な攻撃の典型例として挙げられ、SNS上の言動も対象です。店舗からの報告だけでなく、公開投稿を検知できれば、従業員保護と証拠保全を早く始められます。

■ 事例②:従業員個人の氏名と動画が公開されるリスク

NHKは2020年、前年に訪問業務を行っていた職員が待ち伏せされ、辞去後も侮蔑的な暴言を受けながら執拗に追い回され、その様子が職員個人の氏名とともにネット上へ無断公開されたとして、妨害行為に対する提訴を公表しました。

顧客等とのトラブルが動画化されると、従業員の顔、氏名、勤務先、声などが長期間残り、まとめサイトや別のSNSへ転載される可能性があります。現場対応が終わっても、オンライン上の被害は継続することがあります。

■ 事例③:OB訪問は「社員個人の善意」では管理できない

2019年には、大林組の男性社員がOB訪問アプリを通じて知り合った女子大学生を自宅へ連れ込んだとして逮捕された事案が報じられました。大林組は「当社社員によるハラスメント報道事案」に関する自社対応の不十分さを認め、独立したハラスメント対策室の設置、相談・通報窓口、調査機能、啓発活動、リクルーターへの緊急教育を公表しました。

この事案は、企業の公式選考から離れて見えるOB・OG訪問でも、社員が企業名や採用情報を背景に求職者と接触すれば、重大な企業リスクになり得ることを示しました。

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採用部門が把握していない社員と求職者の接触は、相談窓口だけでは見つけにくい領域です。企業名と「OB訪問」「面接」「インターン」「採用担当」「LINE」「DM」などを組み合わせて公開情報を観測することで、採用現場の外側で生じた兆候を把握できる場合があります。

■ 事例④:事実を認めた後も「声明の言葉」が炎上要因になる

Business Insider Japanは2025年、元従業員が企業名を示してセクハラ被害をXで告発し、企業が4日後に被害を事実と認める声明を出した事例を報じました。一方で、声明の表現によって被害者がさらに傷ついたとして、企業の説明方法にも課題があったと伝えています。

この事例は求職者等セクハラそのものではありませんが、SNS告発への対応では「事実確認が早いか」だけでなく、被害者への配慮、プライバシー、二次被害を生まない言葉選びまで問われることを示しています。

人事・採用・労務部門にSNSモニタリングが必要な理由

■ ① 社内相談より先に公開投稿が出ることがある

被害を受けた人が社内窓口を信用できない、窓口の存在を知らない、企業との関係が悪化することを恐れるといった事情から、X、Threads、TikTok、口コミサイト、就職・転職系サービスなどへ先に投稿する場合があります。

■ ② 一つの投稿から別の被害申告が集まることがある

一人の投稿に「自分も同じ担当者から連絡を受けた」「同じ店舗で似た経験がある」といった返信が集まり、単発の問題ではなく反復・組織的な問題として認識される場合があります。投稿数だけでなく、同種申告の有無と内容の共通点を見る必要があります。

■ ③ 音声・画像・DM画面が同時に公開される

現在の告発投稿では、文章だけでなく録音、動画、メール、LINEやDMの画面、求人票、担当者のプロフィールなどが添付されることがあります。企業は投稿本文だけを見て否定せず、公開資料と社内記録の整合性を確認しなければなりません。

■ ④ 採用評判と従業員保護の双方に影響する

求職者等へのハラスメントは、被害者保護の問題であると同時に、企業の採用ブランドに直結します。一方、カスハラは従業員の心理的安全性、休職・離職、採用難にも影響します。人事部門は、採用と労務を分断せず、ネット上の評判変化を共通のリスク情報として扱う必要があります。

■ ⑤ 公式発表後の二次炎上を確認できる

調査結果や謝罪文を公開した後、説明不足、責任転嫁、被害者特定につながる表現、相談窓口の分かりにくさなどが批判される場合があります。公表は対応の終了ではなく、ネット上の反応を確認して追加説明の要否を判断する段階です。

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ネットパトロールの目的は、被害申告者や批判者を探し出すことではありません。公開情報から安全配慮が必要な兆候を把握し、被害拡大を止めるための事実確認へつなげることです。監視対象・取得情報・保存期間・閲覧権限を定め、プライバシーと個人情報に配慮して運用する必要があります。

人事・総務部門が整備すべき6つの実務

■ ① 方針と判断基準を明文化する

カスハラには毅然と対応して従業員を守ること、求職者等へのセクハラを許さず厳正に対処することを明記します。同時に、正当な苦情や申告を排除しない判断基準も整備します。

■ ② 相談窓口を利用者別に設計する

従業員向け窓口だけでなく、応募者、インターン、実習生がアクセスできる窓口を採用ページや案内メールに表示します。採用担当者本人が相談対象になる可能性を考え、人事部門外や外部窓口も選択肢にします。

■ ③ 採用接点のルールを具体化する

  • 面談可能な時間帯と場所
  • 個室・自宅・宿泊施設での面談禁止
  • 一対一面談の記録または複数人対応
  • 使用可能な連絡手段とSNS
  • 個人LINE・個人SNS・私用メールの禁止範囲
  • 会食、飲酒、送迎、プレゼントの取扱い
  • OB・OG訪問とインターン受入れの報告経路

■ ④ SNSモニタリングの対象語を設計する

社名だけでは十分ではありません。ブランド名、店舗名、支店名、施設名、採用イベント名、インターン名、略称、誤記、役職名などに、次のような語を組み合わせます。

  • カスハラ領域:怒鳴られた、土下座、暴言、脅迫、晒す、動画、店員、名札、クレーム
  • 採用領域:面接、OB訪問、OG訪問、リクルーター、インターン、実習、採用担当、LINE、DM、食事、ホテル、セクハラ

■ ⑤ 発見後のエスカレーションを決める

投稿を発見した担当者が、人事・労務、法務、広報、現場責任者、経営層の誰へ、どの条件で、何分・何時間以内に連絡するかを決めます。生命・身体への危険、個人情報の公開、犯罪に該当し得る言動は、通常案件とは別の緊急経路にします。

■ ⑥ 記録・保護・公表を一つの手順にする

URL、投稿日時、本文、画像・動画、拡散状況を記録し、社内の面談記録や防犯映像などと照合します。その後、被害者の安全確保、担当変更、休養や産業保健スタッフへの接続、行為者への対応、必要に応じた公表までを一連の手順として定めます。

エノルメの分析:制度対応を「規程作成」で終わらせない

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株式会社エノルメでは、創業以来、年間200~250件の企業炎上・レピュテーション毀損事例を継続的に分析しています。ハラスメント事案では、最初の投稿が大きく拡散する前に、小規模な不満投稿、口コミ、質問、同種体験の返信などが現れることがあります。重要なのは、投稿数の増加だけでなく、論点が「個人への不満」から「会社の管理責任」へ変化する瞬間を捉えることです。

ただし、ネットパトロールは法定措置そのものを代替するものではありません。モニタリングで得た情報は、事実認定ではなく確認の端緒として扱い、被害申告者への報復、過度な身元調査、投稿削除の強要につながらない運用が必要です。

まとめ|SNS上の兆候を早期発見できる体制へ

2026年10月1日からの義務化により、企業には次の対応が求められます。

  • カスハラと求職者等セクハラに対する方針を明確にする
  • 従業員・求職者が利用できる相談体制を整備する
  • 迅速かつ正確に事実関係を確認する
  • 被害者への配慮と行為者への適正な措置を行う
  • 再発防止とプライバシー保護を徹底する
  • 採用面談やSNS連絡のルールを具体化する

そして、制度を実際に機能させるためには、相談が届くのを待つだけでなく、公開されたネット情報から兆候を早期に把握する視点が重要です。

SNSモニタリングは、批判を排除するための監視ではありません。従業員と求職者を守り、事実確認と適切な初動を早めるための早期警戒システムです。

人事・採用・労務・総務担当者向けチェックリスト

  • 2026年10月1日施行の二つの義務を社内規程へ反映したか
  • カスハラと正当な苦情を分ける基準があるか
  • 応募者・インターン・実習生が使える相談窓口を周知しているか
  • OB・OG訪問を含む採用接点の時間・場所・連絡手段を定めたか
  • 個人LINEやSNSの利用ルールを明文化したか
  • 社名、店舗名、採用関連語を対象にネット上の兆候を確認しているか
  • 投稿発見後の人事・法務・広報への報告経路があるか
  • 被害者の保護と二次被害防止を公表手順へ組み込んでいるか

参考資料・関連情報

※本記事は、2026年9月29日時点で公表されている法令、指針、行政資料および報道内容を基に作成しています。個別事案の法的判断については、弁護士、社会保険労務士、所轄労働局などの専門機関へご相談ください。